短歌の総合誌「短歌」(KADOKAWA)である松村正直氏の「啄木ごっこ」(45回・8月号)は《自殺願望と「煩悶青年」》と題して小説家の夢から覚める直前の啄木を捉え、悩める啄木と不安の増し行く時代に入ってきた処から書き出されている。
この時代の啄木には、令和の今を生きる若者たちにもつながるような不安と悩みがある。つまり松村氏の啄木は現代人の目で見て、啄木が明治という時代を如何に生き抜こうとしているかを目指しているのか。そんなことを想うと次号がますます楽しみになってきた。
歌人である松村氏が新しい「啄木評伝」を目指したことは、この人の近著『踊り場からの眺め』(六花書林・2021年9月)を読むことで頷けると思う。
新しいことを否定するのでは無く、新しいものを尊重しながらも、まてよ昔の歌人たちはどうであったのか、という立ち止まって考え続けてきたような10年間に及ぶ短歌の時評集であるが、その中から著者の真っ直ぐな姿勢が浮かんできて、それが静かな感動となって溢れてくるような読後感であった。
以前から気になり、注目してきたが前著を読んで更に今後の「啄木ごっこ」が気になってきた。
私のような啄木愛好者に限らず、すでに研究者たちにも無視できない内容になっているものと思う。
※本連載は毎号4頁~5頁の掲載で著者による写真も楽しめる。
未読の方は今からでも図書館を利用して一読されることをおすすめしたい。