松平盟子氏の「与謝野鉄幹と啄木の明治40年代」(26回・113号)は松平氏が主宰の歌誌「プチ★モンド」(季刊)に6年前からの連載である。
松平氏の連載に遅れること3年前から総合短歌誌「短歌」(角川)に連載が開始されたのは松村正直氏の「啄木ごっこ」(32回・2021年6月号)である。
松平氏が論じる啄木は与謝野鉄幹と共に明治という時代の中の啄木である、松村氏の論じる啄木論は、啄木の歌とその軌跡を追う旅を軸にして啄木の生涯をたどる記録と、互いにいまのところ論点の重なることはないが、奇しくも論者が当代歌壇の第一線で活躍する歌人であり、その本職(?)である歌も常に注目度の高い作品を生み出し続けている2人なので目が離せないものだが、論者の2人が互いの論を意識していることは伺われないが、圧倒的に松平氏の論稿は長大であり、論じる視点も壮大である。
この点では松平氏の方に軍配があがると思うのだが、松村氏の啄木論は自分の足で歩いて書いている(各地の啄木関係写真の自撮りなど)ことから現代の啄木を共有するリアル感もあり、歌の解釈にも松村氏の個性もチラリと覗かせるなど心憎い演出もある。
しかし、松平氏の「明治40年代」を俯瞰的に見る視野の広さを思うと、こんな時代の中に啄木は悶え、苦悩しつつ、その身が滅びるまで闘っていたのか、と胸に迫ってくるものがある。
とにかく、注目の2つの啄木論が、それぞれの1本となって登場する日が待たれる昨今である。