今、私たちは人類史上例を見ないほどの規模で命の危機にさらされてをり、その対処の方法も迫られている。そんな時に私は古い啄木文献を整理していて偶然にも啄木が最後に詠んだとされる2首の歌について書かれた小論を目にした。
小論は1993年8月号の「短歌研究」の中に歌人の加藤孝男氏が書いた「石川啄木――人間の最大のかなしみ」という2頁ほどの啄木の最後の歌について書いたものである。
死期を迎えた病床の中で啄木が最後に(おそらくは)書き残した2首の歌を記した歌稿が日本近代文学館に現存するが、この歌は谷村新司の作詞・作曲で大ヒットした歌謡曲「昴」の2節目の冒頭の歌詞に歌謡詩として姿を変えて登場していることは広く知られているが、啄木がこの歌を作った時、それはどのような状況の中で詠まれたものか、加藤氏が詳細に推察しているので、ここに詳しいことは述べ無い。ご覧になりたい方は写真版からお読みください。
啄木の最後の歌から見えて来るもの、その思いは今のコロナ禍に置かれている私たちの状況にも似ているような気もする。だから私には「啄木は生きるために何を必要とした」であろうかが気になる。
啄木は命を守るために、あの明治という脆弱な、そして制限された政治下の社会の中で、貧しさと闘い最大の努力をしていたのである。
私はそこに今さらに感動している。