歌人の山田航氏が雑誌「港の人」11号(神奈川県鎌倉市・港の人 発行所)に、啄木の歌を示しながら書き進めるという新しい試みの「啄木伝」(その1)を発表した。
このような試みは稀であるが、かつて寺山修司が少し似たようなことを試みたことのあることを記憶している。
これまでにも「啄木伝」は多くの人によって、評伝、伝記、小説、戯曲、映画、テレビドラマ、ラジオドラマなどに記され、伝えられてきた。
近年では歌人の三枝昂之氏の著書『啄木 ふるさとの空遠みかも』(本阿弥書店)は、啄木の歌を追いながら、その歌と時代と人を論じた稀なる名著と私は思っているが、この3年ほど前から同じく歌人の松村正直氏が雑誌「短歌」に5月現在で31回の連載の作品もあり、これは啄木の生涯を丁寧にたどりながら松村氏独自の手法で啄木が生まれ育った環境と歌の生まれた土壌の根源を探り出そうとされている連載中の労作である。
さて、「港の人」11号に掲載された山田氏の歌で綴る「啄木伝」とでもいうべき手法には歌人らしい手法もみられて今後の連載が楽しみである。山田氏は既刊の歌集『水に沈む羊』(港の人・2,016年発行)に「啄木遠景」という5頁にわたる長歌も収めており、ほかにも雑誌や新聞などに啄木に関する文章を幾篇か発表されてきたと管見ながら記憶しているので、今回はそれらの経験を踏まえたものになるものと期待している。
第一回目を読んだ限りでは新しい「啄木伝」であると私は確信したので、先ずは拍手を贈りたい。
|