(風土計)2018.9.18
▼けなしているのか、褒めているのか。こう牧水は言っている。「歌を作るぞ」と啄木が構えて詠んだ作はつまらない。むしろ独り言を言うように、正直に、自然にあふれ出たものは「実にいいのがあるのである」
▼17日に没後90年を迎えた牧水は、臭みのある歌を嫌った。臭みとは気取ったり、てらったり、独りよがりの歌を指す。「歌を作るぞ」と構えるのではなく、感じたままを詠む。表現の際は「正直」こそ大事とした
▼「正直に詠まなくては駄目だ。幼稚だと思はれても構はない」「兎(と)に角(かく)、正直に、素直に詠むべきである」(「短歌作法」草稿)。同じように言葉を武器とする政治の世界も、牧水の言に学ぶべきではないか
▼「正直」を掲げて出馬しても、いつの間にか言わなくなる。それが個人攻撃に当たるからという。正直こそ大事だと、子どもの頃から教えられるのに。自民党の総裁選というものは、世間の常識と違うようだ
▼さらに党は、都道府県連に取材対応への自粛も求めた。質問に対し正直に答えることまで、やめさせるらしい。「正直」を封じた言葉ばかりでは、牧水先生が師なら見向きもしないだろう。