石川啄木の晩年(と言っても23歳頃であるが)の思想に多大な影響と今に残る貴重な資料の元を与えたのは新潟県出身の若き弁護士、平出修であった。
平出修は当時の政府が秘密裏に裁いた「大逆事件」(幸徳秋水事件とも)の弁護人の1人であり、明星派の歌人でもあった関係で啄木とは昵懇の中であった。啄木は平出修を通して政府によって仕組まれた壮大な犯罪の陰謀を嗅ぎつけたのであるが、その資料を内密に啄木に見せたのは正義の弁護士・平出修であった、と書けば小説風であるが、本書では啄木が登場のするは後ろの方(217P~283P)である。
写真版で目次を紹介するが、第7章、第8章で、二人の関係は初期の部分である。したがって、著者の「あとがき」に記された「本書の続編、三十九歳で没した修の後半生を「不惑編」として刊行することを期したい。この続編こそが、言論思想の自由を求め続けた修の闘いを、具体的に書き綴る」ものだ、と記されているので、啄木と修の本当の熱い出会いは続編に書かれるものと思うが、日本の暗黒時代の法曹界にあって今もその名を残す若き弁護士平出修の評伝を書き継ぐ著者は80歳を超えてなお、熱い塩浦彰氏の迫力に圧倒される思いで一気に読ませて頂いた。本書はまことに貴重な啄木関係図書の1冊である。
※書誌メモ「著者:塩浦 彰『評伝 平出修』〈而立篇〉四六判 301頁 1389円+税 2018年9月14日 発行:
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