寺山修司外伝、恩師「中野トク小伝」のこと
この本は寺山修司が中学時代の恩師に送った75通の手紙を軸に、知られざる修司の素顔に迫った稀有の「寺山修司外伝」である。
修司研究の第一人者である著者は、修司が「心から求めた物は何んであったか」を本書は明らかにしている。
「カギとなる物を示唆している」と記すのが正確と思うが、私は敢えて「示唆していた」と記して置きたい。
また、終戦直後の日本国民は米軍に頼りきって生きていた。そのような日本の一地方に中野トクのような女性のいたことも含めて、今後の寺山修司研究にとっては貴重な資料となる書である。
感動させるのは著者が、中野トクと寺山修司に寄せる温かい眼差しを感じさせる言葉であり、その言葉がさらに本書の価値を高めている。
(幻戯書房・2022年4月発行・2200円+税)