小説を書くという作業は70歳を超えた身には、体力との勝負もあって大変な作業であり、さらに話題になる小説を書くというと、なおのことであろうが、鳥越碧氏は見事にそれらの障碍を超えてしまったようだ。
このたび発行された「わが夫(つま)啄木」を石川啄木の妻・節子の回想という形から入って生前の啄木との暮らしの中を語り、夫婦という二人の関係では、嫁姑の確執に自らも藻掻く姿を見せるが、そこには明治という時代の家族制度があったことまで感動的に書いている。
本書は「評伝」ではなく、小説なので作者が自由に筆を走らせたところも多くあって、それが実写化された映像を見ているように見えて来るのは、この作家の筆力という他はない。巻末に記された参考文献を見て感服した。新旧の啄木文献から要所を抑えた多くの文献が選ばれている。その多くは学術的にも認められた人たちの研究論である。
そして「あとがき」には、読者を泣かせることも書き込んである。啄木の好きな人には、この正月休みにぜひ、一読をおすすめしたい。この小説を読んだあとでさらに、参考文献の中から何点かの啄木関係の本を読んでみたいと思った人には、山下多恵子著『啄木と郁雨 友の恋歌 矢ぐるまの花』(未知谷)や澤地久枝著『石川節子 愛の永遠を信じたく候』(講談社)などをおすすめしたい。やさしくて、しっかりした内容の啄木伝なら池田功著『石川啄木入門』(桜出版)が最適だと思う。