2022年に刊行された真の啄木研究書は以下の4点!
本年の啄木研究書は管見ながら4点の図書であった。いずれの図書からも長年、真摯に啄木研究に向かい合って来られた姿と重なるもので胸を打つ渾身の作であることが嬉しく感じられる。
研究書にとって何よりも大切なことは「奇を衒うことのないこと」であるが、4人の編著作者の日頃から伺われる研究者としての姿勢が大著を成したことに重なって嬉しい成果であったと思う。
既に藤澤全(『異邦と石川啄木』)や倉橋健一(『歌について~啄木と茂吉をめぐるノート』)両氏の作品についてはこのブログに於いても紹介してあるが、12月になって大室精一、太田登、という啄木研究の第一人者である両氏の編著書が偶然にも同じ日付(この日付は啄木の処女歌集『一握の砂』の刊行と同じ)にて刊行されたことも意義深い。
★大室精一編著『啄木と節子 まるわかり年譜』(内容の詳細は下記に掲載の目次や帯文などにて確認を)は、先年の大著『『一握の砂』『悲しき玩具』~編集による表現~』(おうふう)によって啄木の2冊の歌集における多くの編集の謎が初めて解明されたことでも名著であるが、このたびの編著は啄木の存在をあらゆる面から複合的に、しかも「難しい学術書」では無く、啄木という名を知る誰もが手にしてみたくなるように工夫されたことには感動を越えて感服するばかりの書だ。
本書は今後の啄木研究者にとっても、また、愛好者にとっても座右の書として長く親しまれるものと思う。また、その価値を備えた書であると確信する。
★太田登著『啄木 我を愛する歌~発想と表現~』(本書の内容と詳細も下記に掲載の目次などにて確認を)は、啄木短歌研究に於ける長年の成果を凝縮してまとめられたものであると思うが、著者には既刊『啄木短歌論考~抒情の軌跡~』(八木書店)という名著がある。
今回の書はその後の研究成果の集大成であることはいうまでもないが、本書の表紙カバーの裏面に印字された【『一握の砂』の鑑賞・評釈を新たな視座で再検討】の文字からも解るように『一握の砂』の中の「我を愛する歌」151首を「徹頭徹尾」掘り下げ、深めた解釈には著者ならではの鑑賞と解釈があって読者の私には感動以外の言葉が見つからない。
★特記として紹介したいのは月刊誌「短歌」に村松正直氏が連載中の「啄木ごっこ」である。
この連載は毎号4P~5Pの掲載で既に2022年12月号にて連載50回に達する長編であるが、まだ、当分は連載される予定のようだ。
まさに「足で書く啄木評伝」である。内容にも執筆者の誠実な人柄が滲み出ており、好感が持てるので、毎号楽しみに読ませて頂いている。
※ 管見の言を繰り返すが、ほかにも研究書とは言えないが複数の戯れ書的なものはあったが、それらの著作者には失礼ながら此処にて紹介するに値する文献として私の胸に響くものではないと判断して割愛した。
(2022年12月30日 湘南啄木文庫主宰記す)