啄木には『一握の砂』と『悲しき玩具』の二冊の歌集があることは承前の通りですが、歌集の収められなかった多くの秀歌があることは各種の文庫本などでも広く知られているが、短歌結社誌「りとむ」(2024年3月)にて倉重恵造氏が珍しい歌を取り上げておられて啄木愛好者である私は嬉しくなった。
ふるさとの床屋の鏡わが顔と麦の畑をうつせし鏡
啄木の歌集外歌のみを取り上げて解釈と鑑賞を付して一冊の本にした望月善次氏の労作もあるが、今回のように思いがけない啄木の歌に出会うと、また、文庫本の(私は久保田正文編の旺文社文庫が好きだ)歌集外歌の頁を開きたい心持になる。